2019年8月8日木曜日

「維新」2019参議院選挙マニフェストについて(補足)

「維新」のビラを読む際に比較対象とした第25回参議院議員通常選挙日本維新の会マニフェスト-詳細版-」は、一有権者として読んでいて、なぜこの文章がこのままで世に出せると「維新」は判断したのか、理解に苦しむものだった。筆者がもし政党幹部で、有権者から支持を集める政策が出揃ったと判断し、かつそれを広く有権者に読んでもらい、支持を獲得したいと考えたなら、こういう文書を世には出さないだろう、と思わざるを得ない。

特に「3. 教育・子ども支援、女性がくらしやすい社会へ」は、ひどい。以下にその「マニフェスト」第3章の全文を引用する。
3. 教育・子ども支援、女性がくらしやすい社会へ
1 機会平等社会を実現するための教育完全無償化
 義務教育の他、幼児教育、高校、大学等の教育について無償化
2 教育予算の対 GDP 比を他の先進国並みに引き上げ
3 子育てバウチャーの導入
4 新規参入規制の撤廃、政府発注の規制緩和
5 保育士給与の官民格差是正による保育士の待遇改善
6 保育サポーター制度の導入
7 地方への権限移譲で地域の実情に応じた保育サービスを可能に
8 待機児童ゼロ
9 重大な児童虐待を撲滅
10 社会的基盤の整備によるワークライフバランスの推進
11 正規、非正規を問わない同一労働同一賃金の実現により、特に女性の待遇改善をはかる
12 子どもの数が多いほど税負担が軽減される「N 分 N 乗方式」の導入
13 同一戸籍・同一氏の原則を維持しながら旧姓使用にも一般的な法的効力を。同性婚を認める。
14 共同親権・共同養育の推進
15 性暴力被害・DV(ドメスティック・バイオレンス)の撲滅
16 イヌ、ネコの殺処分ゼロ
この章の題名は繰り返すが「3. 教育・子ども支援、女性がくらしやすい社会へ」である。もし読み手が法律家であればその目から見ていくつもの論点があるだろうことはおよそ想像に難くないが、一有権者の視点から3点だけ以下で取り上げる。

1. 児童虐待

 第3章第9項には、

「重大な児童虐待を撲滅」

とだけ書かれている。この体言止めの一文はどう理解したら良いのか?と迷った。一つの理解は、

児童虐待のうち重大なものについては撲滅


である。筆者は最初はそう読んで、児童虐待に重大も軽微もなく虐待と判定されるような行為を止めさせるべきだから「維新」の主張は可怪しい、と考えた。

しかしもう少し考えてみると、次に記すような考えを上のように表現してしまう人は世の中にはいるな、とも考えた。

児童虐待はいかなるものも重大だから撲滅

後者であれば、この一文の書き手は、読み手が文意をどう把握するかを気にせず書く人だ、ということであり、「維新」の真意として「軽微な虐待」も許容するものではない、と最終的には忖度できる。

結局筆者には、「維新」が児童虐待について、一言で言えば何を考えて「撲滅」と言っているのかがわからない、そういうマニフェストだった、という話である。

筆者の理解の落とし所は最終的には、「マニフェスト」と呼ぶものであれば「撲滅」のために政治はどのような責任を具体的に果たすのか?が書かれていないと「マニフェスト」と呼ぶに値しないのではないか?という点に落ち着いた。児童虐待について維新が何を考えているのか?という点は、もはやどうでも良くなってしまうのである。 

一有権者にしてみれば、「維新」のマニフェストに書いてあることを理解しようとして、最終的にはどうでもよいという気分で理解を止める、そういう一項目なのである。

 2. 動物愛護


第3章第16節には、

「イヌ、ネコの殺処分ゼロ」

とだけ書かれている。これがなぜ「教育・子ども支援、女性がくらしやすい社会へ」と章題が記された章の中に挿入され、最後に記されているのか、この体言止めの一文を読んだだけでは理解できない。「イヌ、ネコ」の問題は「(蔑称であるところの)女子供」の問題である、と「維新」が言ってはいないとは断言できない読後感である。

筆者の思考の経緯をここに記したところで、この項目もまた上記の「1.児童虐待」の結末と同じことである。なのでその話は記さない。

参議院選挙公約の比較対象として、「希望と安心の日本を 参院選にあたっての日本共産党の公約(2019年6月21日)」の中に含まれる「各分野の政策 33,動物愛護ーー人と動物の共生する社会をめざす」(副題は、各分野の政策の書かれた本文の中では「ペットの殺処分を減らし、人と動物が共生する社会を目指す」と記されている。副題だけで「維新」のマニフェスト(しかも「詳細版」)の文字数を超えている)を挙げる。体言止めの一文だけが記された政策ではないので、読み終えるのに圧倒的に時間を要する。しかし政党としてのこの分野についての認識・理解と政策が圧倒的に明解に理解できる点が「維新」のマニフェストとは異なる。

だがこのテーマでは参議院神奈川選挙区、日本維新の会公認、松沢しげふみ候補の選挙公報における「松沢しげふみの政策」の方が、「維新」のマニフェストよりは文字数が多く読み甲斐がある。
■ペットと共生社会
犬猫殺処分ゼロ・虐待ゼロを自治体やボランティア団体と協力して実現
内容も「マニフェスト」に比べて大別して2項目増えているが、文字数も内容も共産党の動物愛護政策の比ではない。もっとも、選挙区選挙の選挙公報に候補者が個別政策を長文で記すことは、字数と面積の制約上、不可能である。その点で政党が自らの媒体で公表する選挙公約、「マニフェスト」には字数の制限がなく自由に記述できるはずである。動物愛護政策については「維新」のマニフェストは選挙区選挙の選挙公報に候補者が記したものよりも、記述の内容が薄い、という点で、少なくともこの政策に限定すれば「維新」がマニフェストにかける無関心さ、無政策を感じざるを得ない。

このテーマの最後に記す、そもそも「維新」のマニフェストのこの一文に筆者が着目したきっかけ、日本維新の会、埼玉県越谷市議会議員のある「リツイート」を取り上げる。

小林まさよし【越谷市】日本維新の会さんがリツイート
伊藤岳@gaku_ito・7月11日
動物殺処分やめよう

伊藤岳氏は埼玉選挙区で当選した共産党の候補である。
伊藤氏のツイートの内容は、上記、共産党の政策に沿った内容が簡潔に記されたものである。

越谷市議がミスでこのようなリツイートをし、かつその後も一ヶ月近くにわたってそのままにしている、というわけではないのであれば、この越谷市議は自党である「維新」の動物愛護政策よりは、共産党の動物愛護政策に、いくばくかの賛意を表している、もしくは自党の動物愛護政策を誇っていない、ということなのかもしれないと想像できる。この越谷市議のツイッターへの投稿を一つ一つ読む限り、攻撃や「さらしもの」にするために伊藤氏の投稿のリツイートをしているというわけではないことは看取できることがその想像の背後にはある。

この日本維新の会の越谷市議のおおらかさには好感をもった、ということをこのテーマの最後に筆者は記したかったのだった。

 3. 文法とPDFファイル

上に引用した「維新」のマニフェスト第3章は、基本的に体言止めの箇条書きであり、句点(「。」)は助詞もしくは述語で終わる各1項目、第14節にのみ現れる。基本的に一文で終わるという節の構成にあって、この第14節が二文に分けられている内容は、第一文は旧姓使用、第二文は同性婚への言及であり、この2つがなぜ一つの節にまとめられるのかは、他の節が節ごとに内容が違うことと比較して、理解に苦しむ。もしこの二文が2つの節に分割されたならば、句点を用いられたのかどうか?なお、述語で終わる第11節には句点は用いられない。

第2章には二文で構成された節が4節あり、以下に引用する。
1 規制緩和による経済成長。停滞の 30 年から発展する未来へ
7 NHK 改革。防災情報など公共性の高い分野は無料化し、スマホ向け無料配信アプリを導入。有料部分は放送のスクランブル化と有料配信アプリの導入。
10 中小企業の円滑な事業承継の実現に向けた税制の見直し。第三者による承継(M&A)を後押し。
17 シェアリングエコノミー(民泊等)に注力。これを可能にする技術の発展(自動運転など)を推し進めていく
第二文が句点で終わる節が2つ、句点で終わらない節が2つである。

このマニフェストは、日本語があまり得意ではない人が作成し、「維新」の執行部が細部を確認しないままこれを承認して世に出したものなのだろう、と考えた。このPDFファイル自体を少し詳しく調べてみたら、「維新」のある参議院議員の、本人もしくは参議院議員秘書ないし同スタッフが、Microsoft Word 2010を使って作成したファイルと推認された。

「維新」の、選挙公約を書面にして有権者に広く示すことへの熱意が伝わらない書面で、真面目に読んで損をした気分を最後に記してこのテーマを締めくくる。