2019年8月15日木曜日

2019年の埼玉:「維新」の選挙公報は他県の「維新」候補のものと比べても特異

埼玉選挙区の「維新」候補者の選挙公報が、専ら共産党への論難に特化する一方で自党の政策を具体的に述べず、結果として共産党への論難が自党へ跳ね返る内容となっているという、政治文書としては恥ずかしくて読むに耐えず、しかし有権者を馬鹿にしていると取られても仕方のない内容であることをここまでに論じた。

 先にすでに、「維新」が論難する共産党との間で選挙公報を比較したが、上記の印象が、「維新」の埼玉以外の選挙区候補者の選挙公報と比較しても際立ってしまう、というのがここからの話である。

選挙公報上での「維新」による共産党攻撃は、全国的に共通した戦術だったのではなく、埼玉の「維新」のみが採用した独自の戦術であり、しかもそれは今年初めて採用した戦術だった、というのが以下の結論である。

 2019年参議院選挙における「維新」選挙区候補者の選挙公報の比較

以下は各都府県選挙管理委員会のHPから入手した選挙公報から、「維新」候補者の部分について抜粋したものである。2019年参議院選挙では埼玉以外に茨城・東京・神奈川・愛知・大阪・兵庫で「維新」の5選挙区候補者が立候補していた。以下にまず埼玉の候補者以外の5候補者の選挙公報を北から順に、最後に埼玉選挙区候補者の選挙公報を示す。

一政党の選挙区候補者の選挙公報を、選挙区をまたいで比較すると、逆に各選挙区の候補者が有権者に、どのテーマを強調して訴えようとしているのかが分かりやすくなる。
  • 茨城・東京・神奈川は現職・元職(党派を問わず、地方、首長を含む)であり、自らの実績を示してこれとの対比で公約を示す
  • 地域政党2党の公認候補だった愛知は2党の公約を併記する
  • 大阪の2候補者は、現職は実績を、新人は大阪での自党の実績を、公約と併せて示す
  • 兵庫の現職は、実績は示さないが公約は示す
こう比較してみると、埼玉の新人の選挙公報は次の点で、埼玉以外のすべての候補者の選挙公報の共通点と比べて異質なことが分かる。
  • 公約を記さない(見解は記す)
  • 共産党攻撃に文面を割く
  • 他党が「社会保障」政策の「提案なし」と無根拠な=虚偽の、記載
  • 「全国で支持率拡大中」を有権者にアピールする
  • 比例区で投票用紙に「日本維新の会」と記さないよう訴える
  • 比例区候補者のプロフィールと肖像を挿入
このように比較した結果、埼玉の「維新」候補者は、有権者に次のことを訴えたかったという理解になってしまう。
  • 共産党候補者を落選させたい(候補者の願望ではなく有権者への訴えとして)
  • 「維新」は全国で伸びているから、埼玉でも
  • (公約の有無と内容にかかわらず)
全国的な比較の結果、埼玉の「維新」候補者の選挙公報は、一有権者には、ただの反共団体の政治宣伝と映るようになってしまった。

3年前の同じ候補者の選挙公報との比較

 下に、2016年参議院埼玉選挙区の「維新」(当時は「おおさか維新の会)の候補者の選挙公報を引用する。
候補者は同一人物であるにもかかわらず、この3年後の選挙公報とは一目瞭然に異なる。2016年の埼玉の「維新」は選挙公報に、公約を記していた。また新人候補で実績はない代わりに、自党の大阪での実績も示している。2019年の「維新」の他都府県の候補者のものと同様の、「普通」な選挙公報である。

 いつからこうなってしまったのか?…2017年衆議院総選挙との比較

  埼玉の「維新」候補者の選挙公報が、2016年には「普通」だったところ、2019年には「反共宣伝」だった、その中間に位置する2017年衆議院総選挙での埼玉の「維新」候補者の選挙公報をみる。

埼玉4区で立候補した青柳仁士氏のツイッターに、選挙公報の画像が残る。その選挙公報の文面は、「普通」、すなわち公約が記され、無根拠な他党攻撃は記されない。

何が彼らをこうさせてしまったのか?

日本維新の会埼玉県総支部代表の指示?

「維新」の中でも異常な選挙公報を作成してしまった埼玉の「維新」の候補者と陣営は、なぜ2019年にこうなってしまったのか?一有権者としては興味本位のレベルにおいては関心がある。

日本維新の会埼玉県総支部の代表で、比例区の投票では記名が選挙公報の上で「異色のスタイル」で訴えられていた候補者でもあった、経済評論家がそういう戦術を指示したのかな?と最初は思っていた。

彼の選挙期間中の街頭演説が、彼のブログに掲載されている。これをざっと読んでみても、共産党に対する強硬な敵対意識は微塵も感じられない(意識すらしていないようである)。演説内容の中心は金融経済政策であり、終盤には年金の仕組みについても言及している。

また、そのブログには日本維新の会共同代表の、「初代総務大臣」の応援演説も掲載されているが、その中にも共産党への攻撃は読み取れない。その中に野党への言及は一文、
…この年金の問題は与党・野党ではなくて、皆が周知を集めて、国民のために、安心な年金を作るべきなんです。
という箇所が見られ、この後に自党の年金制度の提案が述べられるが、野党に提案がないなどという論難はしていない。

日本維新の会代表(大阪市長)の指示?

6月15日(土)、川口市内で日本維新の会代表(大阪市長)を招いての決起集会の模様が動画で公開されている。この中で代表は、講演の中で野党について、政策に対する言及はしておらず、野党共闘についての参加者からの質問に、代表はおおよそ次のような言葉を散りばめながら回答している(1:27:30付近から)
野党共闘についてどう思いますか?
「国民を舐めている」「足し算しか見えてない」「野党談合でしかありません」
「選挙というのは政策を選んでもらう。政策選挙です。だから選挙と言うんですから。」
「それを、政策、政治理念、信条、政策がバラバラの人たちが組んで、自分たちの身分をなんとか増やしたい、守りたいだけの話なんで、こういうものには一切耳を傾ける必要はない、と僕はそう思ってます。」
野党による共闘に対する批判はしているものの、政策についての批判には触れていない。文脈上、「一切耳を傾ける必要はない」と言っている対象は、自党の野党共闘への態度についてであって、野党共闘の個々の政党の政策を無きものとして扱うことを述べているようには聞き取れない。

しかも、選挙は政策を有権者に選んでもらう場であることに、代表自らが言及している。選挙公報に政策を示さない埼玉の「維新」の態度とはかけ離れている発言である。

この発言に即せば、「政策選挙」を有権者の前で大いに公明正大に、「維新」が野党共闘ないし共産党に対して、展開してもよいように一有権者には見える。しかし少なくとも年金制度について、実際には共産党は「マクロ年金スライド」の廃止を提案する一方で「維新」の政策の一つ、「積立方式」についてその問題点を批判したのに対し、「維新」は共産党を「社会保障」政策の「提案なし」であると論難した。どちらが「政策選挙」を展開したかは明らかだ。共産党は「維新」代表の講演に沿っており、沿っていないのは埼玉の「維新」である。

また代表の講演では、大阪における「維新」の実績について、大要次のように述べて、埼玉でも伝えてほしいと訴えている(1:25:20付近)。
僕、大阪市長なんで、一週間ずっと市役所にいてますから、なかなか関東に、埼玉に来て、皆さん方にいろいろ大阪でのやっていること、大阪の実績をなかなか、僕自身が伝えるというのは、スケジュール的に厳しい。沢田くんも伝えていきますが、今日ご出席いただいているみなさんも、選挙期間中、口コミで伝えていただきたい。
大阪の実績は、公示前のビラでも、公示後の選挙公報でも、埼玉の「維新」は伝えていない。代表は約1時間の講演時間の大きな部分を、大阪での実績の紹介に割いている。こちらはいくら何でも、共産党は「維新」の代表の言にしたがって「維新」の大阪での実績を「口コミ」することはしない。したがって少なくとも公示前の時点での言辞に即せば、選挙公報に大阪での実績を紹介しないという埼玉の「維新」の戦術は、代表の立場からすればありえないように見える。

代表の発言に埼玉の「維新」がもししたがったならば、埼玉選挙区での選挙公報は2016年の選挙公報のような内容で後に作られたはずだ、と想像できる。2019年の選挙公報のような内容に結実するとは想像できない点で、少なくとも表向きは代表の指示で後者が作られたとは考えにくい(決起集会の裏で、代表が埼玉の陣営に、決起集会で語った趣旨と異なるビラや選挙公報を作成することを命じた、と考えることはしない)。

候補者自身も6月の演説では野党への言及は皆無

6月15日の決起集会では、候補者(当時は予定候補)自らも演説している(動画の15:00付近から)。その中では具体的な政策については述べられていないものの、自らが政治家を目指した動機などを述べて、
「維新とは何か」「松井一郎さんのように」「自分のキャリアを捨てて、もっている利権や保身を捨てて、それでもなお、10年後、20年後の未来を信じて動くのが維新」
として参加者への自党の押し出しを図っている。野党への言及自身が演説の中にない。他党と比較して自党が優位だ、と政策の比較で論じても良いのに、とは筆者は思う。

結局、誰の入れ知恵か?

埼玉の「維新」の6月15日の決起集会の時点では、6月中、公示前に配布されたビラは入稿済みか入稿直前、準備中だったものと目される。決起集会での代表や候補者の発言とは戦術の大きく異なる内容のビラが、決起集会の時点では準備されていたと想像され、それが選挙公報にもそのまま引き継がれたと目される。

有権者を欺いて「選挙を汚す」選挙公報が、6月後半以降、「維新」の誰の指示で、「維新」の代表以下の戦術とも異なる形で制作されたのか、興味本位には関心がある。6月15日の時点では準備されていたであろうビラを起点として、選挙公報の上で「維新」をただの、公約なしの反共団体に埼玉の有権者に対してしてしまうことは、「維新」代表の講演内容にも反する、もはや「愚挙」と呼ばれてもしかたのないものだったのだから。