2019年8月5日月曜日

2019年6月、「維新」のビラが我が家に届く(前編)

このブログのきっかけは2019年6月に我が家に届いた「日本維新の会 さいたま市事務所」からのビラ(発行元は「沢田良後援会」)である。

初めに断り書きを記せば、政治活動のビラが我が家に届くことは、筆者は歓迎である。ビラ配布は有権者が受け身だったとしてもその政治主張を有権者に届けようとする、政治団体・政治家の能動的活動であり、その地道な活動に筆者は敬服する(例え、ビラ配布作業が政治団体の構成員によるものでなく、金銭を支払っての委託作業だったとしても)。ビラを配布しない・できない政治団体・政治家を筆者は軽蔑する。

しかし、以下に記すのはビラの内容についてであり、ビラ配布の政治活動への敬服とは別の話である。

「維新」が記す表


両面カラー印刷のビラの、候補者名が上側に大きく記された面を表面とすれば、ウラ面に「政党別スタンス」と欄外にタイトルが記された表が以下に引用する表である。



この表に関する直接の言及はビラの文章の中には見当たらない(間接的な言及については、改めて記す)。

国政選挙である参議院選挙の投票日を約1ヶ月後に控え、「政党別」のスタンスとして「社会保障」政策に「提案」が「なし」である国政政党があるとは、常識的には思えない。にもかかわらず「沢田良後援会」は「国民民主党」「立憲民主党」「共産党」が「社会保障」政策の「提案」が「なし」だと記す。

2019年参議院選挙の直前は、年金制度の問題が報道で大きく取り上げられた。しかし「社会保障」との関係では年金制度は膨大な体型である「社会保障」政策の一部であり、社会保障は年金よりも大きな枠組みの問題である。年金制度だけでない社会保障政策全般に関して、「提案なし」という状態で国政政党が国政選挙に臨んでいる、というのが「維新」の国政政党観であることがこの表に表現されている。

このような記載を、「さいたま市」の「維新」のみが行っているのではないことは、さいたま市の南隣の蕨市の「維新」の市議会議員のビラからも確認できる。こちらのビラは、記名は「日本維新の会 蕨支部」、ただし発行元は「中野たかゆき後援会」である。上に引用した表と同一の表が、こちらのビラでは表面(蕨市議の上半身写真と氏名が上半分に描かれた面)に記されている。少なくとも、埼玉県内の2つの自治体の「維新」がこの表を有権者に届けていることになる。

「社会保障」の「提案なし」で国政選挙に臨む国政政党などあるのか?


「常識的には」こんな事態などありえないこのビラの記載について、一例を確認し、「常識」は間違っていなかったことを事実に基づいて確認する。以下ではまずこの事実確認の経過を記す。次にこのビラが「維新」の主張として記す「仕組みの見直し」の内容を同一の方法で、「後編」で確認する。

まず「社会保障」に関する「維新」の指摘、国民・立憲・共産に社会保障の「提案なし」の実際を以下に記す。

日本共産党「希望と安心の日本を 参院選にあたっての日本共産党の公約(2019年6月21日)」(全20ページ)を冒頭から読んでいくと、まず4ページに『「くらしに希望を―三つの提案」の概要』が記され、同党の提案する政策に必要な予算の概要が記される。5ページには『消費税に頼らない財源確保策の概要』として税制と支出の変更により、4ページに記した必要な予算の捻出の案が記される。『消費税増税の中止』を求める政策と併記して、「(2)くらしに希望を―三つの提案……消費税増税なしで実現できます」(4ページ)から記された事項の中で、特に「くらしを支える社会保障を」の中で、年金制度以外にも国民健康保険料(税)制度について論じられている。

このように共産党の場合、社会保障制度に関する提案を、消費税増税の中止とセットで論じている。上記の「維新」の表における、共産党は消費税増税に反対するが社会保障政策の「提案なし」、との記載は、事実とは異なる。ここで筆者が論じたいことは、「提案」の内容に対する評価の問題ではなく、「提案」の有無は事実に基づいて記し、また論じない限り、読み手には事実に関する誤謬を、またこの場合であれば「維新」による評価のみを伝えることになる、その問題点を指摘したいのである。

ビラの作成と配布のタイミング:「提案なし」ではなく単なる「確認不足」もしくは…


6月に配布された「維新」のビラの中に、「維新」が6月21日付の他党派(例としての共産党)の政策を確認できなかったために「提案なし」と記した可能性は、次の理由で認められない。

同党の「消費税増税の中止 くらしに希望を―三つの提案(2019年05月22日)」の中でもすでに、「くらしに希望を―三つの提案」と記した章では「2、くらしを支える社会保障を」と記した節が、また「7.5兆円の新たな財源で可能に――「消費税に頼らない別の道」で」と記した章では参議院選挙への公約と同様の提案が記されている。

参議院選挙を控え、消費税増税中止を共産党が明確に表明したのはこの5月22日であり、もし「維新」のビラがこの5月22日以降に作成されたのであれば、「提案なし」との表記は他党派の政策の確認不足である。5月に発表された政策が参議院選挙とは関係がない、と評価するならば、その政治センスは尋常でなく低い。だが「維新」は共産党が「消費税増税中止」を掲げていることは認知し、ビラにもそのことは記している。にもかかわらず「社会保障」の「提案なし」と何を根拠にしるしたのか?

もっとも、「維新」のビラは参議院選挙と無関係に「政党別スタンス」として三野党について社会保障政策の「提案なし」と述べている。したがって、5月か6月か、という時期のズレは参議院選挙との関係では問題ではない。

「維新」のビラは、この5月22日以前に作成されたものではない。ビラの表面の下段の見出しは「自民党が撤回させた老後2000万円必要という金融庁報告書について」である。自民党が金融庁報告書の撤回を要求したのは6月11日のことであり(産経新聞『自民、「2000万円蓄え」の金融庁報告書の撤回要求』)、「維新」のビラが6月11日以降に作成されたことはこの事実経過から確認できる。

結局、「維新」のビラは他党派の政策を吟味することなく「提案なし」と記して有権者に届けている。自党の調査不足が他党派批判にすり替わっていることに形式的にはなっている。このようなビラが無意識に作成されて有権者に届けられているのであれば、それは「杜撰」と述べざるを得ない。意図的に作成されているのであれば、有権者に虚偽を流布する政党の言動は厳しく批判されねばならない。

自党派と他党派の政策の違いに対する論戦の作法とは?


また共産党が示す個別政策の中で、「各分野の政策 2、年金――無年金・低年金の解決、年金積立金の運用、最低保障年金、「消えた年金」、「一元化」・「積立金方式」」では、特に次のような記述がある。

「積立金方式」を看板にした制度改悪に反対します
 この間、財界の一部や日本維新の会などから、年金財政の「積立方式への移行」が叫ばれています。その中身は、公的年金を、民間保険会社の年金保険と基本的に同じ仕組みにするというものです。
  そうなれば、国民が受け取る年金は「自分で積み立てた金額+運用益」にとどめられ、老後の生活資金は「自己責任」で確保することが求められます。年金の保障に対する国の責任、事業主の保険料負担の責任が後退する一方、今でも貧しい年金給付はいっそう貧しくなっていきます。また、若い世代は、自分の老後の積立をしながら、現在の高齢者も支えるという「二重の負担」を強いられます。高齢者にとっても、現役世代にとっても、いいことは何もありません。
 日本共産党は、「積立方式化」の名で年金支給を削減し、公的年金への国の責任を後退させる制度改悪に反対します。 
この記述には、「維新」のビラと比較して2つの特徴が指摘できる。

  1. 他党派の主張は事実として述べる。
  2. 自党派の主張は、事実としての他党派の主張に対して述べる形で、他党派の政策を批判する。
政治論戦とは通常このようなものであると、筆者は常識に基づいて考える。有権者に他党派の政策と自党派との政策を比較してもらえるよう、材料を提供するのがフェアであり、争い合う他党派に対するマナーでもあるはずだ。他党派の存在を前提に、自党派と他党派の政策を有権者に判断してもらうのだから、政策そのものを問うのは当然である。

このような姿勢を「維新」はとらない。他党派の政策の有無など気にかけず、単に言及しないのではなく、他党派による提案を有権者が知り判断する機会を、「提案なし」と断定して阻止する。自党派の政策のみが存在するかのように有権者に伝える。このような態度は、ややテーマを大きく述べれば、「複数政党制」を実質的に、言論レベルで否定する態度とさえ言える。

そして少なくとも、有権者にとっては「提案なし」は虚偽である。

政党が選挙にあたって有権者に示す提案内容の、有権者による吟味と判断は有権者の権利である。政治団体・政党がその権利を、虚偽の流布によって奪うことは許されない。

(後編へつづく)