2019年8月23日金曜日

埼玉で「維新」、毎日新聞世論調査を騙る(前編)

出典:https://twitter.com/hoshi__kentaro/status/1150900419582820352
上の画像は、「維新」の千葉県の前・市川市議のツイッターアカウントに7月15日付で掲載された画像の引用である。彼は参議院選挙の期間、埼玉の候補者の応援に日参し、特にツイッター上で繰り返し報告される、公示日からの選挙ポスターの貼り出し作業への尽力ぶり自体には驚かされる。

Yahooで「参院選 2019 埼玉」で画像を検索しても同じ画像がヒットし、なおかつヒットした画像をクリックしていくと、「埼玉の沢田良【公式】 2019/07/19 に公開」なる「埼玉が変わる瞬間がついに来た!...10代20代県内支持率80%↑↑ 参院選2019速報!」という動画にたどり着く(下図参照)。


最初の画像の右半分は、意訳すれば、自民党支持者が自民党候補者に投票するのは「価値」が低い、「維新」の候補者への投票が「価値」が「高い」と訴える、ただし政策は一切なしという、さもしい訴えであり、もはや論じる「価値」がない。

以下で論じるのは、上記画像の左下に示される表で、拡大したものが以下の画像である。


左下に小さく「毎日新聞世論調査より埼玉選挙区主要候補者の情報を抜粋」と記されているこの「埼玉選挙区候補者支持率調査」の表を見ると、埼玉選挙区の候補者の中で、共産党候補者が支持率を日に日に下げている(右下向きの矢印が添えられている)のと対照的に「維新」の候補者がこれに迫っている(これは右上向きの矢印が添えられている)、という数字になっている。この数字に後押しされた形で、「猛追」「接戦」との表現が右上で使われていることは容易に想像できる。

しかし、これらの数字がすべて捏造で、「毎日新聞世論調査」によるというこれらの数字は実際には世に存在しないというのが以下の話である。

ひと目見てまず変だなと気づくことができる箇所

選挙直前や選挙期間中の、候補者と世論調査に関する新聞報道に多少触れたことのある有権者なら、先の表をひと目見てまず「変だな」と気づける箇所があることに気づく。「選挙区候補者」の「支持率調査」の結果を公示直前、及び選挙期間中に繰り返し数字で示して報道する新聞があるだろうか?

政党支持率ではない。「候補者」の「支持率」である。

毎日新聞による選挙区候補者の情勢に関する報道の実際

選挙区候補者の情勢に関する新聞報道は、毎日新聞では次の2回、それぞれ次のように報じられている。
7月6日付 地方版
参院選2019 毎日新聞総合調査 古川氏浸透、熊谷氏追う 伊藤氏と矢倉氏、競り合い /埼玉 
自民現職の古川俊治氏が選挙戦を優位に進め、立憲新人の熊谷裕人氏も安定した戦い。共産新人の伊藤岳氏と公明現職の矢倉克夫氏が競り合いながら後を追う。この4人を国民新人の宍戸千絵氏が懸命に追い、維新新人の沢田良氏が続く。

7月15日付 地方版
2019参院選 後半情勢 毎日新聞総合調査 古川、熊谷氏がリード 追う伊藤、矢倉氏 /埼玉 
自民現職の古川氏と立憲新人の熊谷氏がリードし、共産新人の伊藤氏と公明現職の矢倉氏が追う。
この4人を維新新人の沢田氏が懸命に追い、国民新人の宍戸氏が続く。

先の表の3つの「変」な箇所

 このように実際の毎日新聞の記事を見れば、先の表は大きく2つの点で「変」であることに気づく。
  • 選挙区候補者の支持率を数字で報じてはいない
  • 選挙区候補者の情勢を報じている日付が違う 
    • 先の表に記された日付は、6月30日、7月8日、7月13日
    • 7月6日付報道の調査期間は7月4日、5日
    • 7月15日付報道の調査期間は7月13日、14日
また、
  • 公示日(7月4日)にならなければ立候補者は確定しない。立候補者が確定する以前に立候補を予定すると目されるだけの者の支持率を調査して報じる新聞社などあるだろうか?
という点も「変」である。

この点で毎日新聞では6月28日付で、26日、27日に共同通信社が実施した全国規模での比例区の投票先に関する世論調査の結果が報じられている。それによれば、
  • 自民党    28.8%
  • 立憲民主党  9.0%
  • 公明党    5.6%
  • 共産党    3.4%
  • 日本維新の会 3.2%
  • 国民民主党  1.6%
  • 社民党    1.2%
とされている(この時点では、開票後に急激に議論の的となった「れいわ新撰組」に関する言及が報道文の中にない点は興味深い)。この数字を勘違いして、「埼玉選挙区」の「候補者」の支持率と記したのだとしても、数値も違えば日付も違う。範囲も埼玉だけのものではない。

毎日新聞を騙った謎の表

先に引用した表は、「毎日新聞世論調査」と謳っているが、実際には数値も日付もデタラメの、調査自体が存在しない、そういう内容の表である。存在しないものを存在するかのように作り上げることを「捏造」というならば(いうので)、この表は捏造された表に他ならない。しかもその表に「毎日新聞世論調査」とわざわざ書き加えているのであるから、「毎日新聞を騙っている」と言わざるを得ない。

「毎日新聞を騙った捏造」の表を取り込んだ「維新」候補者「【公式】」の動画の内容

画像検索によってヒットする上記二番目の画像をクリックしていくと見られる動画は、駅頭と思しき街頭における演説の模様である。その中で、「維新」候補は次のように述べている(0:44〜1:43)。
(略)今回の参議院議員選挙は4つの議席を争う選挙となっております。上から自民党、立憲民主党、公明党、これね、3ヶ月前から当選確実のランプが点きっぱなしなんですね。選挙をする前から当選が決まっていました。4つしかない議席のうち3つが決まっているんですね、これもう。 
何で決まってるの?必ず投票に行く、政治と利害関係のある人がいっぱいいるということなんです。だから、やる前から決まっちゃっているんです、選挙が。決まっていないのは最後の一議席だけ。最後の一議席をどうするのか? 
ぜひ考えていただきたいのが、この国のあり方を真剣に考えている、この国をもっと良くしていきたい、この国が大好きな、そんな良識のある人にお願いがあるんです。今回の選挙は、最後の一議席を私、沢田良か、共産党の伊藤岳さんで争っている状況になっています。これは最新の世論調査も含めてかなり確証の高い情報です。(略)
候補者はなぜ、共産党候補者と争っている状況を、具体的な調査報道を根拠に演説の中で聴衆にアピールしないのか?この動画へのリンクが後に張られた、上記の表を含む画像ファイルがインターネット上に配置され、この表が毎日新聞を騙った捏造であることを自覚しているため、具体的な報道についてアピールできないからではないか?と指摘されても仕方があるまい。

有権者でもある市井人として付言すれば、候補者が演説の中で、具体的根拠も示さず「かなり確証の高い情報」なるものを述べるのを聞いても、それは胡散臭い、眉唾ものだとその場で聞いていたら思うだろうと想像する。

7月15日付毎日新聞報道では、7月6日付報道と比較して、「維新」候補者が共産党候補者の次の順位に位置するようになったとの報道のされ方をしている。その報道をそのまま事実に基づいて述べれば、何も「かなり確証の高い情報」などと胡散臭い言い方をしなくてもよい。それをなぜそのように表現したのか?そのように表現した動機自身が、毎日新聞を騙って捏造した数字に基づく胡散臭いものだったからだったのではないか?といまの時点で確かめていくと合点がいく。

毎日新聞を騙った捏造の表にリンクが張られたこの動画を候補者本人が「【公式】」だと記しているのだから、以上の一通りのことが理解できたら、「維新」のこの候補に票を入れようという気には、一有権者としては絶対にならない。毎日新聞という実在の新聞の報道だと騙り、捏造した数値を使って、有権者に自分への投票を訴える候補者なのだから。捏造がバレないうちに有権者の票をかすめ取ろとしているのが「維新」の候補者だ、と思われても仕方がないことを彼と彼の陣営はやってのけた。

「維新」の候補者の意図にかかわらず、このようにまとめると、彼が言う「良識のある人」とは、捏造されたデータとを鵜呑みにして候補者の演説を信じ込んでしまう人、ということになってしまう。